どんなに相手が真似しようと思っても、真似できないものを作らなきゃ

「達人に訊け」ビートたけし著より。
こう語っているのは、金型職人の岡野雅行さんだった。たけしさんとの対談は、やはり同じ下町育ちらしく、この一冊の中では最も話がのっている感じもする。
いかにも製造職人らしい発言でもあった。日本でも、昔の職人にはできて、今はできないものが結構あるらしい。
いくら機械などの技術が進歩しても、それだけでは追いつかないものも多いようだ。結局は人の手作りの巧みさが仕事の出来栄えを左右することも多いのだろう。
たとえば、昔はがま口のパッチンと閉まる金具が、今はなかなか容易にはできないらしい。かつては金具だった部分もファスナーになってしまうようだ。
また岡野さんは、約40年前に一枚の鉄板からつくった継ぎ目のない鈴もつくっていた。この技術も他の人にはわからないという。人ができないものを作ってしまうのはやりがいもあるに違いないな。

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「利口な人間」と「頭のいい人間」は違う。
「達人に訊け」ビートたけし著より。
(前日のつづき)
これも岡野さんの考えだった。こんなことはふだんあまり考えたことはなかった。仕事仲間と遊ぶうちに学んだ一つのことがこんなことでもあったようだ。
頭のいい奴は学校の勉強はできるけど世渡り下手だという。また利口な奴は世渡りが上手くて、何かと応用もきくと考えていた。まあどちらもバランスよくできればベストなのだろうが。
たけしさんが「どういうところでアイデアを思いつくんですか?」と質問すると、岡野さんは「世の中いかに遊んできたか、また失敗をしてきたかだ」と答えている。
結果的に失敗をたくさんして、そこから学んだからこそ、アイデアも思いつくということらしい。やはり頭でっかちでなく、体験から学ぶことは多そうだ。
しかも、岡野さんの作るものは世界初のものばかりだというからすごい。それだけ満足感も大きいのだろうな。これでこそ本物の職人と言えそうだ。

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本当にやりたいことをやるためには、まず目の前の長いハシゴを上らないといけない。
「達人に訊け」ビートたけし著より。
これは、あとがきの部分でビートたけしさんが語っていることだった。このはじめのところでは、対案した職人の人達に向かって、みんな本当に運のいい人達だな、と感想を述べている。
それは、実際に何をやっていいかわからない人や、仕事のおもしろさに気づかないで終わってしまう人が多いからだった。ところが、達人と呼ばれる人は本当に好きなことを見つけて、その楽しさを発見できた人たちでもあるからだった。
また自身のことも振り返っていた。ハシゴを上るために努力を惜しまなかったということらしい。その最初のハシゴだったのが松竹演芸場の漫才だったという。
そのハシゴを苦労して上ったからこそ、映画や絵画、さらには司会業など幅広い活躍が可能になったのだ。いろんなハシゴをあみがくじのように上っているということらしい。
蛇足ながら、職人に共通していることは、その仕事が好きなことと、苦労しても辞めないということらしい。やりたいハシゴの届く位置まで、どれだけ一所懸命に上れるか・・・



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