ネット世界の言葉の跳梁とリアル世界の言葉の不毛の隔絶・・・

「別海から来た女」佐野眞一著より。
数年前に起きた結婚詐欺連続殺人事件について書かれたノンフィクションだった。最近もこれよりさらに恐ろしい事件で64歳の女を含め8人が逮捕されたというニュースがあった。この事件の真相の解明はまだ先になるだろうが。
この本で扱われている事件では一人の30代の女が、ネットを使って知り合った中高年の男から詐欺で多額の現金をだまし取り殺人にまで発展していた。また殺人以外でも多額の詐欺事件は数件を起していた。
佐野氏は以前『東電OL殺人事件』を書いていたが、それを超える事件だと言っている。この事件を解く最大のキーポイントはネットという匿名世界が、暮らしの中に浸透していたからこそ起きたとも言える。
この事件の被告木嶋は、佐野氏の言葉を借りれば、「まるで“仕事”のようにメールやブログを書いている」という。ところが、リアルの世界では会話らしい会話はなく、言葉の貧困さを指摘していた。そのギャップは不気味ですらあったようだ。

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万人を発信者に変えたインターネット社会の到来をもう少し懐疑の目で見た方がいい。
「別海から来た女」佐野眞一著より。
(前日のつづき)
この事件の被告、木嶋佳苗はネットではかなり饒舌だったようだ。そして、メールでは言葉巧みに独身で結婚願望のある中年の男をウソを重ねて、金銭を要求している。見知らぬ他人とメールをはじめて、いきなりお金の話が出てくること自体も怪しい。
筆者はメールという整ったフォントは、公共性をまとっているという表現をしている。それが危険をカモフラージュする“信頼性”という罠になっているようだ。
佐野氏はこうも言う。「結婚詐欺は数年前まで男の“専売特許”だった」と。しかし、この事件では立場はまったく逆転していた。女は自分の華美な生活を維持しようと詐欺を繰り返していたのだ。
そして行き詰るとすぐに殺人にまで発展してしまう。実に恐ろしい。その方法は睡眠薬で眠らせ、その間に練炭による一酸化酸素中毒で死亡させるというものだった。実にアナログ的ともいえる。
事件の被告は当然ながら異常者ではあるが、毒婦ということばも当てはまる。佐野氏は「(被害者となった)彼らにもう少し人間を見る洞察力があれば、最悪の結果だけは免れた気もする」と述べていた。
ネットでは誰でもが思いつきでいきなり発信者となることができる。そこでは何が真実でなにがウソかはわかりにくくなっている。また人は誰かとつながりたいという本能もあるのだろうが、気をつけねば・・・な。