「三流の一流」

「相鉄瓦版」平成24年4月1日発行より。
この号の特集は“別の生き方、見つけました”となっていた。まずはじめに紹介されていたのが、声優・ナレーターのキートン山田さんだった。人気テレビアニメ「ちびまる子ちゃん」のナレーションは独特で面白い。キャリアは40年と長い。
山田さんのターニングポイントはいくつかあったようだ。一つ目は北海道の出身で高校卒業後建設会社に勤めて、その後劇団員にあこがれてサラリーマンを辞めてしまったことだった。苦労の末役者の仕事と声の仕事ができるようになったのだ。
一時、アニメブームで順調に進んでいた声優の仕事も30代になるとほとんどなくなってしまったという。しかしなんとか踏みとどまれたのは、そのころ人から聞いた「三流の一流」だったのだ。
三流でもいいじゃないか、その中で自分なりの一流を目指せばいい、ということらしい。何でもトップを目指さなくてもいいわけだ。人との競争より、自分らしい色に磨きをかけるという意味でもあるようだ。
そう考えて、生まれ変わろうと38歳の時、キートン山田と改名したという。これが二つ目のターニングポイントだった。そして44歳の時に「ちびまる子ちゃん」と出会ったのだ。やはり仕事がなくても辞めなかったから出会えたと述懐している。運命だとも感じている。
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時には無謀な挑戦も悪くない。
「相鉄瓦版」平成24年4月1日発行より。
(前日のつづき)
山田さんは54歳のときに通いの田舎暮らしもはじめ、61歳で家を建てていた。仕事場は東京だが、通える範囲内ということで、静岡県伊東市にしたようだ。もともと生まれ育ったのが北海道で、歳をとったらぜひ野菜作りをしたいと思っていたのだ。広い空の下での畑仕事は楽しいという。好きな趣味と実益に没頭できることほど幸せなことはないだろう。
さらなるチャレンジは59歳でホノルルマラソンを走ったことだった。それまでマラソンの経験などまったくなかったのだが、7時間47分58秒で完走できたという。大した練習もなしの挑戦は実に無謀だ。
すると欲ができてきて、毎年フルマラソンンを走るようになったという。今年の東京マラソンでは自己記録を更新し続けて、5時間23分5秒で完走できたという。体調や体力と相談しながら、楽しく自分自身と戦っている感じらしい。
若い頃からの夢だった田舎暮らし、思いつきでも継続できるマラソンをし、仕事も続けられているとは、なんとも理想的な生活にも思える。あと3年で70歳になるというが、歳をとるなりに楽しむためには、それなりの努力も必要なのだろうな・・・

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客観的な評価などよりも大切なのは、まず自分自身が満足するということ。

「相鉄瓦版」平成24年4月1日発行より。
別の生き方を見つけたもう一人は、ボランティアで紙芝居を始めた方だった。Wさんは、高校卒業後精密機器メーカーで定年まで勤めあげた、さらに職場での仕事の継続も可能であったが、あえて、別のことをやりたいと思ったのだ。
定年退職まであと半年と迫った平成18年12月に、ある夜子どものころに見た白ヒゲの紙芝居のおじさんが、たまたま夢の中にできてきたという。
なにかべつのことをしたいと思っていたのが「これだ!」と直観でわかったという。もともとモノを作るのも人を楽しませるのも好きだったという。そこで、定年後も継続して働く話は白紙にしてもらったそうだ。
紙芝居も手作りをメインにしているという。ボランティアだから気を使うこともないようだ。始めは集まらなかったものの、何時しか子どもだけではなくお年寄りも楽しみにしていることがわかったのだ。
ある老人施設からの依頼があり、継続して続けるようになったという。当然ながら、お年寄りを前に紙芝居をすることなど、全くの想定外のことだった。Wさんはセリフをそのまま読み上げるのではなく、芝居風に演じているようだ。
その他、さまざまな工夫が凝らされているという。やはりこんな自分なりの工夫をするからこそお客さんも喜んでくれるに違いない。また、Wさんには喜んでもらえることが何よりな報酬になっているのだろう。たとえ、自己満足でもかまわないようだ。始めないことには、失敗も成功もないか。