彼がレジェンドになった時、何を語るか。

朝日新聞」2009.9.25付けより。
コラムの“EYE”というコナーで編集委員の西村欣也さんが述べていたことだった。はじめの部分では、ベルリンでの世界陸上選手権で男子100メートルと200メートルで世界新記録を達成したウサイン・ボルト選手を引き合いに出していた。
インタビューで、彼が「何のために走るのか」と問われたとき「レジェンド(伝説)になるため」と答えたという。実に端的で力強く自信に充ち溢れた言葉だと思った次第。スポーツの世界で伝説になれるのは世界一の記録を残せた選手でしかもそれが百年単位で破られなかった場合ではないだろうか。つまりそれほど、とてつもない記録を残さなければ伝説とはならないに違いない。
そこで、いまその新たな伝説に近づいているのがメジャーリーグイチロー選手だろう。9年連続200安打まであと16本というところで、足踏みしてしまっているのが気にかかる。左ふくらはぎの張りで8試合連続で欠場しているマリナーズイチロー選手だが、今月半ばにはきっと新記録を達成してくれることだろう。
8年連続200安打をウィリー・キーラーが達成したのは1901年のことだったから、新記録は108年ぶりとなる。かつてキーラーの記録を実際に目にしたことのある人は今はいるのだろうか。いずれにしても伝説だった記録と選手で、イチロー選手はそれに並んでいる。
またイチロー選手が達成すれば、それをテレビ画面で見られる私たちは同時代に生きられてラッキーとも言えそうだ。今後そんな伝説的な記録は100年後でも見られるとは限らないし。(もしかしたら、その記録を破るのはまたイチロー選手の可能性もあるが。そうなるとますます伝説的プレヤーになってしまう。)
いずれにしても、そんなレジェンドになった時、何を語るか今から待ち遠しいと、西村さんは述べていた。同感。

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入試問題というゲームの記号処理の枠内で起こっていることでしかない。
「頭がいいとは文脈力である」齋藤孝著より。
先月たまたま都内の古本市で見かけ買った本だった。齋藤氏は、難関中学入試の問題がすらすら解けてしまう小学生を見たときに、うーん、すごいと思ったが、だからといって「頭がいい」とは言い切れないという感じを受けたと語っている。
それはどういうことだろう。つまりこれは、目の前の記号をどう操作するとどうなるということをやっているだけで、現実のこととはかけ離れているからだった。入試問題がすらすら解けたからといって、社会にでてからコミュニケーション能力が人一倍優れているという保証はない。また人に分かりやすく教えられるかは別問題だろう。
それに引き替え、一流スポーツ選手というのは、実に「頭がいい」と感じていた。齋藤氏が対談したことのある、ハンマー投げ室伏広治選手、柔道の野村忠宏選手、スピードスケートの清水宏保選手にしてもそう感じたという。
それは彼らが現実を突きつけられて、それに対応する術を常に考えてトレーニングを重ねていたことが要因らしい。そうすることによって、否応なしに頭がよくなっていくという。自分で考えてやり抜いている人間ほど修羅場になっても強いのだ。
また一流のアスリートたちは、独自な練習法をもっているようで、人からは練習ぎらいとかサボっているように見られることもあるらしい。しかし、他の人が練習だと思わないようなことを練習にしていたりするようだ。意味がある練習だけに集中してやっているということだった。
逆に言えば、ムダだと思われることには時間を費やさないということだった。凡人は意味があるかどうかわからないものに対して時間を費やしてしまうのだろう・・・な。だから、一流アスリートのように意味を考えながら頭を鍛えることが必要なようだ。私にはもう手遅れだが。

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「文脈ぶった切り器」

「頭がいいとは文脈力である」齋藤孝著より。
実に面白い表現にぶつかった。これは言葉のことで、最近若者がよく使っている「っていうか」という一言だった。
たまに電車のなかなどで話に夢中になっている学生たちの声が聞こえてくると、その中に「っていうか」が出てくる。言っている方はほとんど無意識なのだろう。
この一言で、それまでの話をまったく別のものに切り変えてしまう。一人前の大人でもたまにこの言葉を耳にすることはある。私も何度か使われたことはあるが、やはり不愉快なものだ。今までの話題を無視されるような感覚だからだ。
しかし、齋藤氏は「あなたの話はつまらないからやめてもらいたい」と思った場合は、この「っていうか」も効果的な手法になり得るという。しかし、それはかなり親しい間柄でないと通用しないようだ。
それが、もしサービス業だったりしたら、常識を疑われるかもしれない。人の話をぶった切って、自分の都合だけで話し続ける人にこそ、「っていうか」を使ってみたいもの・・・かな。