自分が良かったと思うことは、広く人に伝えようとする。

「つきあい好きが道を開く」樋口廣太郎著より。
これは京セラ名誉会長の稲盛和夫さんの最大の特徴らしい。ある会社の社長が「あなたの会社の特許関係者は何人いますか」と聞かれて「22、3人」と答えた。すると稲盛氏は「かつてはうちにも同じくらいの人数の専門家がいたが、今は少なくて済んでいる。・・(中略)・・視点を広げて米国の特許事務所とも契約するといいですよ」と言ったのだ。
米国の特許事務所に仕事を頼んでみたら、対応が非常に早い上に、間違いも極めて少なかったというのが理由だったようだ。その結果社内の特許関係部門の人員を大幅に減らして、他に転用できるようになったので、その会社の社長にも「あなたの会社でも一つやってみたらどうでしょう」とアドバイスをしてくれたそうだ。
普通なら、自分のところが成功したことなど、聞かれもしないのに積極的に教える人はいない。稲盛氏はツキを自分だけのものにしないで、他人にも分け与えていたのだ。それだけ人間としての器の大きさがあるというエピソードでもあるだろう。
この本の筆者の樋口氏も稲盛氏に対しては、常に礼儀正しく、謙虚で、明るい性格だと述べている。かつて京都にJリーグのチームを作る際にも、稲盛氏が登場したら、すぐに話がまとまってしまったという。仲間づくりの達人でもあるらしい。やはり本当にリーダーとなるべくして生まれた人は、違うものを持っているとも感じさせる。


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木は木立のうちの命と、材になってからの命と、二度の命をもつもの。
「木」幸田文著より。

普通なら、木は緑の葉をもって地面にしっかりと根を張って立っているものだけが生きていると思ってしまう。まして、材木が生きているとは考えていない。しかし、堂塔古建築にたずさわる高度の特殊技能をもつ棟梁たちからみれば、立木としての生命を終わったあとの“材”もまた生きていたのだ。
それについては次のように表現されていた。・・・法隆寺千二百年の昔の材に、ひと鉋(かんな)あてれば、いきいきとしたきめと光沢のある肌を現し、芳香をたてる。湿気を吸えばふくよかに、乾燥すればしかむ。これは生きている証ではないか。・・・と。
幸田さんは、棟梁からこのことを聞かされ、わかったような気もしたという。もちろん材を生かすことができるほどの腕前をもった専門家がいればこそのことでもあろうが。また寿命を使いつくして死んだ木というのもあるという。それはまた、別の貴さ、安らかさがあるという。同じものを見てもその道の専門家は実にいろいろな見方ができるものだ。
コンクリートのビルから出てアスファルトの道を歩く。そして鉄とコンクリートの駅舎に入り鉄の電車に乗ってまた駅舎をくぐる。今度は鉄のバスに乗る。そしてようやく木造の自宅に入るとなんだかほっとする。無言の木のぬくもりだろうか・・・

(この随筆集は13年間にわたって書かれたものだった。粘り強く木について取材し、15の話にまとめ上げている。また実に細やかに人の気持ちまでも表現されている。たまにはこんな随筆をじっくりと味わうのもいいものだ。)


人は一生ごみと切っても切れない道連れ・・・
「包む」幸田文著より。
まず、庭ゴミについて触れていた。木の葉、花びら、小枝、むしった雑草・・・これら植物のゴミがたまっていてもさほどきたない感じでも、見苦しいものではない、と述べていた。そういえば、こう言われる前まではそんなことも気に留めなかった。
実際、時どき庭ゴミをまとめて置いたりはしているが、急いで出してしまわねばと思うことはなかった。それは腐敗して悪臭を放つわけでもないからだろう。枯れ葉などはそのまま腐葉土となって土の栄養分として自然にかえってくれる。
ところが、人の生活にくっついて出る生ゴミなどは、早めに自分の目に入る場所から遠ざけたいと思うもの。とくに台所で水分を含んだものはゴミ箱に入っているだけでも嫌なものだ。かつて数年間だけはコンポスターなどをつかって肥料にしたことはあったが、いまではそのまま生ゴミとして指定日に出す方が楽になってしまった。
ゴミとは言っても当然はじめからゴミであったわけではない。何かの不要になった部分の集まりだろう。野菜や果物の皮や根っこや葉だったり。切ったばかりのときにはまだ決してきたないものではない。しかし、調理したり加工した食品などは腐敗するのは早い。そんな時にごみはきたないと感じるのだろう。
と、こんなことを書いている自分も、もうそろそろ粗大ごみになっているのかもしれない。ゴミと道連れか・・・、なんだかわかる気もするが・・・
蛇足
生ゴミなど燃やせるゴミといえば、地元の焼却場ではその熱を使って公共の室内温水プールの施設に利用している。私もたまに利用しているが、ゴミももっといろいろと有効利用できればいいが。