建物は百分の一度以上傾斜すると、ゴルフボールが転がり始める。

「技人(わざび)ニッポン」日本経済新聞社=編より。
このあとにさらに次の文章が続いている。「人間は三半規管が狂いだし、吐き気をもよおす。頭痛がしてくることもある。日常暮らすのが厄介になる。」
このことからも、水平な建物の中で暮らせることのありがたさがよくわかる。ここでは地震などで傾いた建物を元の状態にもどす会社について書かれていた。社名は平成テクノスという。先ほどのような傾いた建物も復元が終わると、体調の不調もピタッととまるという。人の体はそれほどまでにデリケートだったのかと気づかされる。
この優れた技術情報は海外にも伝わっていた。イタリアの政府が「ピサの斜塔」を立て直せるかと打診してきたとき、「お安いご用です」と図面まで送ったという。しかし、もし真っすぐに立て直されたら、歴史的価値がなくなると心配したらしく、音沙汰がなかったらしい。ちょっと残念。
この会社の特殊な工法では小さな建物から大きなビルまで復元できるという。それは十万分の一の誤差まで感知できるセンサーが入った水平器で確認しながらの作業だ。阪神大震災で傾いたビルを既におよそ百棟、元の姿に戻した実績もある。どんな大きなビルもミリ単位で復元しているのだ。
目の前では百分の一度の傾きなど見せられてもピンとこないだろう。しかし、高層ビルの場合は当然ながらその誤差は大きくなる。新宿西口には高層ビルがいくつも平行に立っている。それらのビルの間から見える細長い空の幅が全く同じであるのを見るたびに、どこまでも水平に建設できる技術に驚かされている。だからこそ、このフレーズがちょっと気になったのかもしれない。