画家の一本の「線」にも長い時間と人生がこめられている。

「マンガを解剖する」より
線を引くだけなら一見簡単そうに見える。しかし、独自の「線」を描くには長い修行が必要なのだった。
たとえば、陶芸家の浜田庄司は独自の線を体得するのに生涯をかけていた。浜田の絵付けには絵の具を垂らしただけの作品が多い。それほど時間がかかるわけではない。しかし、そんな短い時間で制作した作品でも数百万円はしてしまう。それに対して高すぎるという批判もあったらしい。
しかし、浜田は力強く答えたという。自分がこの絵を描くのにかけた時間は十数秒ではなく“六十年と十数秒”だという。
なるほど、そのとおりだ。ひとつの独自のスタイルを確立するまでは何十年もかかるのは当然。
そこで、数秒で勝負が決してしまう相撲だってそのためには何年もの苦しく厳しい修行に耐えなければなならいと気づく。土俵に上がる前の時間のほうが圧倒的に長い。その時間に心技体を鍛えて初めて勝負のチャンスが与えられる。
それでも相手に勝てるかどうかはまだわからない。それだけ実力の世界は厳しいことがうかがえる。それに比べたら自分の日々の甘さを痛感してしまう。